今日のスウェーデンは世俗的な社会です。しかし、私たちの伝統の中には宗教を起源とするものも多く、今も宗教は重要な役割を果たしています。実のところ、私たちは祝うことが好きな国民です。ですから、起源を忘れてしまった慣習があっても問題はなく、祝ってしまうのです。
世界の他の地域から入ってきた宗教や伝統も、スウェーデンの文化を豊かにしています。たとえば、イスラム教の祝祭日であるラマダンがそうです。スウェーデンには約50万人のイスラム教徒がいるため、この断食月が見過ごされてしまうことはありません。古くからのスウェーデンの伝統が、さまざまな伝統と出会い、融合することによって、姿を消すことはありません。そこに私たちは、継続性や帰属性を感じるのです。
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スウェーデンの伝統の多くは、四季の移りかわりと密接に関連しています。冬には信じられないほどたくさんのキャンドルを灯しますし、夏には何か屋外での活動をすることが欠かせません。私たちスウェーデン人が大切にしている伝統の中から、夏至祭、ザリガニパーティー、ルシア祭、クリスマスの行事について見てましょう。
6月:学校が休暇に入り、自然にはエネルギーがあふれています。太陽はまるで沈まないように思えます。実のところ、北部では太陽は沈まず、南部では一日のうち数時間だけ、わずかに暗くなります。さあ、お祝いの時です! 家族や友人を集め、最もスウェーデンらしい伝統――夏至祭のお祝いをしましょう。
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夏至祭のお祝いというのは、実は夏至点を祝うものです。スウェーデン人は、キリスト教が伝わるよりも前の時代から、6月21日頃に当たる一年で最も昼間が長い日を祝ってきました。1950年代以降は、実用的な理由から、6月19日から25日までの間の金曜日を夏至祭の前夜として祝っています。
夏至祭の前夜にひとりきりでいることを望むなら、都会に残るのがいいでしょう。その週末には、多くの人々が家族や友人と共に夏至祭を祝おうと、田舎に向かうからです。
お祝いが始まる前に、ほぼ義務として行われるいくつかの儀式があります。まず、野の花を摘んで編み、頭に乗せる冠と、メイポール(夏至柱)に吊り下げる花輪を作ります。次に、メイポールを木の葉や花で飾ります。それから、周りで輪になってダンスを踊るのに十分な広さがある場所にメイポールを立てます。
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さあ、ランチの時間です
屋外にテーブルをセットして、花で飾ります。ただし、突然にわか雨が降り出して、家の中にテーブルを移動しなければならないことがほとんどですが。料理はシンプルに、さまざまな種類のニシンと、ディルとサワークリームを添えた新ジャガです。定番のデザートはホイップクリームを添えたイチゴ。大人たちの多くは、シュナップスと呼ばれる蒸留酒でニシンを一気に流し込むのが大好きです。ただし、飲む前には、ちょっとおかしな酒宴の歌を歌うことになっています。これらの歌は、世代から世代へと受け継がれてきました。スウェーデンのシュナップスは穀類やジャガイモで作られていて、風味が加えられていることが多いのですが、決して甘くはありません。
食事が終わり、みんなの気分が盛り上がってくると、いよいよダンスが始まります。子供も大人もメイポールを囲んで輪になって、伝統的な歌に合わせて踊ります。ダンスそのものは難しくはありません。手をつないで、ポールの周りを同じ方向に動くだけです。多くの小さな市町村では、民族音楽の演奏家を呼び、その演奏に合わせて踊ります。
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夏至の日は決して暗くなりませんから、パーティーは何時間でも続きます。朝もやが野原に広がり始める頃、ようやく人々は家に戻り、ベッドに入るのです。
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8月:最高なのは、暖かくて穏やかな夏の終わりの夜。いくつものテーブルに茹でたザリガニがいっぱいに積み上げられます。その昔は高級なごちそうだったザリガニですが、今では一年中手に入ります。それでも、ほとんどのスウェーデン人は、伝統的な解禁の時期である8月がやって来るまで、食べずに待っているのです。
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夏至祭のお祝いと同じく、ザリガニパーティーも屋外で行うのが一般的です。これには実用的な理由があります。まず、ザリガニを食べる作業は厄介で汚れてしまうこと。そして、家の中で食べると、なかなかニオイが取れないのです。テーブルクロスやお皿、ナプキン、ちょうちんは紙製のものを使います。ご希望なら、エプロンとおかしな帽子も身に着けましょう。片付けは簡単です。食べ終わったら、全部まとめて大きなゴミ袋へ捨てます。
ザリガニはたっぷりのディルと一緒に茹でます。お好みで、ビールを少量入れてもよいでしょう。お皿にザリガニが盛られると、人々は殻を剥き、汁をすすり、おいしい身にかぶりつくのです。そして夏至祭の時と同じように、おきまりの酒宴の歌を歌って、シュナップスを流し込みます。
私たちは一般的に、パック詰めされた冷凍か生のザリガニを食料品店で購入します。さまざまな原産国のブランドを比較した検査結果が新聞紙上で発表されますが、「泥臭い」、「100点満点の塩加減、適量なディルの量」などなど、評価はさまざまです。1位に輝いたブランドが店頭で完売するのに、そう時間はかかりません。けれども、そんなことはどうでもいいのです。私たちはザリガニが手に入れば、幸せなのですから。
12月:太陽の沈む時間はどんどん早くなります。それでも運がよければ、雪が夜の闇を明るく照らし、クリスマスの独特な気分を醸し出します。ご多分に漏れず、スウェーデンでもクリスマスは商業化されているかもしれません。ですが、手作りのクリスマスの飾りを取り出して、キャンドルを灯し、家族代々受け継がれてきたレシピでジンジャークッキーやサフランパンを焼く――そんな時でもあるのです。
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12月はパーティーが目白押し。それはクリスマスの前の4回の日曜日、すなわちアドベント(待降節)の第1週から始まります。隣人や友人たちは互いを自宅に招き、グレッグ(ホットワイン)をふるまいます。職場ではクリスマスパーティーが企画されます。スウェーデン人は世俗的な国民ですが、クリスマスとその伝統が神聖なものであることは認めざるを得ません。
12月13日はルシア祭。全国の就学前保育所では、幼い子供たちが白くて長い衣装に身を包み、そろりそろりと歩きます。手にはキャンドルを持ち、誇らしげな両親の前で有名なクリスマスソングを歌うのです。
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ほとんどの女の子はルシア役になりたいと思っています。時には男の子もそうです。そのため、就学前保育所では、ルシア役を希望するすべての子供が、電池式のキャンドルの付いた冠を頭にのせ、腰には赤いリボンを巻いています。その他の女の子たちはルシアの介添え役で、手に1本のキャンドルを持ちます。男の子の大半は小さなサンタさんに変身。他には、先端に星の付いた棒を手に持ち、紙で作ったとんがり帽子をかぶったスターボーイや、ジンジャーブレッドマンもいます。
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子供たちが大きくなると、ルシア役は一人に限られるため、競争は熾烈になります。また年とともに、男の子たちは長い衣装を着ることを嫌がるようになるため、スターボーイ役を見つけることも困難になっていくのです。
ルシア祭から11日が経つと、クリスマスイブを迎えます。12月24日にはサンタクロースが私たちの家を訪れ、私たちはクリスマスプレゼントを贈り合います。ほとんどのスウェーデン人は家族と一緒にクリスマスを祝うのです。クリスマス当日とその翌日は祝日で、大半の人々はクリスマスから大晦日の間を休暇にします。
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12月24日のお昼には、ニシンやミートボール、クリスマスハムなど、とてもおいしい料理を集めた魅力的なクリスマスのスモーガスボードがふるまわれます。飾り付けをされたクリスマスツリーがキラキラ輝いています。午後3時になると、子供からお年寄りまでスウェーデン人は皆、テレビの前に陣取り、『ドナルド・ダック』を見ます。これは、1960年代から続く、いろいろなディズニー映画を見せてくれる番組です。すると、誰かがドアをノックします。サンタクロースです! 待ちきれない子供たちはプレゼントの包みを破ります。するとようやく、もらったばかりの新しいおもちゃで遊び始めることができるのです。さて、そのときイエスキリストに想いを馳せる人はいるのでしょうか?
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