スウェーデン人の大半は、国内南部の都市部や過密地域に暮らしています。ところが、彼らに母国の環境について話してほしいと頼めば、おそらく美しい風景や深い森林、あるいは穏やかな群島について語るでしょう。理由はごく簡単です。私たちは、たとえストックホルムのような大都市に暮らしていたとしても、そのすぐ間近で私たちを取り囲んでいる自然に対して、強い思い入れを抱きながら育っているからです。スウェーデン人は、運動をしたり、新鮮な空気を吸ったり、あるいは田舎で散策に出かけたりして、屋外で過ごすことを好みます。
広大な景色やすばらしい自然に存分に触れられるのですから、スウェーデンが持続可能な開発を維持するのは不思議なことではありません。手つかずの自然や新鮮な空気、きれいな水を、未来の世代も同じように利用できること、それは私たちにとって当然のことなのです。
Fredrik Broman/imagebank.sweden.se
スウェーデンにはヨーロッパ最後の広大な原野がいくつか存在しますが、とりわけスウェーデンの自然の特徴は、限られた地域でありながら、自然の種類が非常に多様である点です。スウェーデンはユーラシア大陸の中でも地質学的に安定した部分に位置しています。ですから、この地盤だけは変わることがないと言えましょう。
国土の大半が針葉樹林に覆われ、多くの広葉樹も散在しているため、木々が色とりどりに紅葉する秋は美しい季節です。最も南に位置するスコーネ地方には、国内で最も肥沃な農耕地帯が広がります。少し北上すると、森林に覆われたスモーランド地方の高原が姿を現し、そのまわりには田畑や湖などのさまざまな風景が見られます。
Stina Statfren/imagebank.sweden.se
バルト海沿岸から少し離れて浮かぶのは、国内で最も古くて魅惑的な古代遺跡がいくつも存在する、エーランド島とゴットランド島。石灰を豊富に含む岩盤と穏やかな気候のおかげで、ここにはランやその他の外来植物が生息しています。これらの島は特にスウェーデン人に人気の観光スポットです。それ以外の大きな群島地域にも多くの観光客が訪れます。東海岸と西海岸に暮らす人々は、それぞれどちらの地域が美しいかを競い合っています。しかし実際のところ、どちらの海岸にもそれぞれの魅力があるのです。
その少し北に位置するのが、鉄鉱石などの古い鉱脈を抱えるベリィスラーゲン地方です。かつて、この地でスウェーデンの最初の産業が生まれました。ベリィスラーゲン地方は、メーラレン湖に浮かぶ14の島々から成るスウェーデンの美しい首都、ストックホルムからそれほど遠く離れていません。
北西部には、ノルウェーとの国境に沿って、恐竜の化石のような形のスカンジナビア山脈が南北に走っています。とは言っても、最も高い山頂でも標高1,000~2,000メートルほどです。
Fredrik Broman/imagebank.sweden.se
山脈を北へたどって行くと、最終的にラップランド(Sápmi)へ到達します。平穏でありながらドラマティックでもある、壮大な手つかずのこの原野には、ヨーロッパに残る少数先住民族のひとつ、サーミ人が暮らしています。
山々を源とするいくつかの国内最大級の河川は、平原や牧草地、針葉樹林、カバ林、湿地帯に覆われた北極圏の雄大な景観を通り抜け、やがてバルト海沿岸へと流れ込むのです。
スウェーデン人は日々、メキシコ湾流に感謝しなければなりません。私たちに暖かさをもたらしてくれる、この穏やかな大西洋の暖流がなかったら、スウェーデンではホッキョクグマが街路を闊歩しているという噂も、おそらく真実になっていたことでしょう。そして西部に連なる山々もまた、大西洋から吹いてくる、より冷たく湿った風から、私たちを守ってくれているのです。
そうは言っても、スウェーデンでははっきりと四季が分かれています。冬は極寒になることがあります。極北を訪れたり、向こう見ずなスウェーデン人と一緒にサウナから出て凍りついた湖に飛び込んだりすれば、なおさら寒さを感じます。
Mikko Nikkinen/imagebank.sweden.se
四季の移りかわりは気候に大きな影響を与えますが、なかでも日の光りに変化をもたらします。スウェーデンでは春から夏至にかけて、全国的にどんどん日が長くなっていきます。それが一番はっきりとわかるのは北部です。夏になると非常に明るくなるため、夜は厚手のカーテンやアイマスクの利用がおすすめです。北極圏以北の地域では、夏至前後の1~2カ月間は太陽が完全に沈むことはありません。南部では残照のようにやや薄暗くなる時間帯がわずかに訪れます。
Tomas Utsi/imagebank.sweden.se
反対に冬になると、北部では太陽がまったく昇りません。それでも、雪のおかげで暗闇は明るくなり、時折空いっぱいにオーロラが輝きます。この幻想的な光の現象は、太陽風によって運ばれた荷電粒子が高速で地球の磁場と衝突することによって発生するもので、私たちが目にすることのできる最も美しい景色のひとつです。
Maria Emitslof/imagebank.sweden.se
絶滅危惧種や希少種の動物については、長年にわたり規制のないまま狩猟が行われていましたが、目標を定めた数々の保護対策が講じられた結果、種の生存に向けた新たなチャンスが生まれました。国立公園や自然保護区を担当する環境保護庁が、絶滅の危機に瀕しているすべての動植物を保護すべき種として登録できるのです。
国内各地の森林に生息している堂々たる風貌のヘラジカは、土産物のモチーフや道路の警戒標識でおなじみです。また人気メニューの食材でもあります。そして、ヒグマ、クズリ、オオカミ、オオヤマネコといった、私たちのよく知る肉食動物の餌食となることも多い動物です。この4つの動物にヘラジカを加えた、スウェーデン版“ビッグファイブ”と称される動物の中で、ヘラジカはおそらく人間に対して最も攻撃的、もしくは何が起きても最も人間を恐れない動物といえるでしょう。また、オオカミは人々に恐れられていながら、愛されてもいて、禁猟区の設定をめぐって最も意見の分かれる動物です。2010年には、激しい議論の結果、許可制によるオオカミの狩猟が45年ぶりに行われました。
Staffan Widstrand/imagebank.sweden.se
鳥類については、冬の間は種類が少ないのですが、春から夏にかけては南方からやって来る渡り鳥の数が増えます。スウェーデンの長い海岸線沿いや多くの湖には、たくさんの動物やさまざまな魚類が生息しているのです。
植物についても、タンポポから外来種のランまで多種多様な種が、とりわけ山脈地帯や、バルト海のゴットランド島、エーランド島に生息しています。おそらく、これらの植物よりもさらに有名なのは、18世紀に活躍した、スウェーデン出身の医師であり植物学者であるカール・フォン・リンネでしょう。リンネは、ダーウィンを導いた重要な先駆者であると考えられており、生物学の最初の分類体系である『自然の体系(Systema Naturae)』をまとめました。
雄大なスウェーデンの自然と開放的な景観を十分に享受できるのですから、与えられた機会を大切にしないわけにはいきません。雨が降ろうと、雪が降ろうと、風が吹こうと、太陽が照り輝こうと、そんなことは関係ありません。スウェーデンでは昔から「悪天候なんてない、着ている服が間違っているだけ」と言います。キノコのアンズ茸を摘むことから、ピッケルを使って凍った滝を登ることまで、すべてを含め、ただ自然の中に出かけていく、それが一番なのです。
Sara Ingman/imagebank.sweden.se
私たちは、美しい自然に恵まれた人口の少ない国に、ただ暮らしているわけではありません。1892年には、野外生活のための全国的な組織、野外生活推進協会(Friluftsfrämjandet)も設立されました。また、自分たちの健康に気を配るだけでなく、環境に対してはおそらくさらに高い関心を持っています。スウェーデンの自然が身近にあることと、その自然がいかに傷つきやすいものであるかを理解することを、切り離して考えることはできません。
さらに、スウェーデンには「自然享受権」という珍しい権利があります。これは中世にまでさかのぼる権利で、自然の中のどこで過ごしてもよいというもの。つまり、たとえ個人の所有地であっても、誰でも自由に森林や野原を通り、ベリー類やキノコやほとんどの植物を摘むことができるのです。ただし、それには大きな責任を伴います。自然や野生の動植物を守ること、そして土地の所有者や他の人々への配慮を忘れないことなどです。原則として、他の人の邪魔をしたり、自然を傷つけたりしない限り、私たちはどこでも散策することができます。
Carolina Romare/imagebank.sweden.se
スウェーデンはウインタースポーツを楽しむには最高の国です。凍った湖やスケートリンク、森はたちまち、スケートやクロスカントリースキーを楽しむ場となります。山のロッジはスラロームスキーの愛好家たちの予約で埋まり、カイトウイングスケートやアイスボート、氷河クライミングのエキサイティングな楽しさに気づく人がどんどん増えています。実は、冬以外にもウインタースポーツをすることは可能で、北極圏以北の地域での真夏のスキーなども人気です。この季節はスキーコースでも太陽が決して沈みませんから、間違いなく他にはない体験でしょう。
Henrik Trygg/imagebank.sweden.se
ただし、夏のスキーを楽しむ人は多くはありません。人々は森に出かけてベリー類やキノコを摘んだり、ハイキングをしたり、群島でヨットやカヌーに乗ったりします。あるいは、国内の一級河川で行われる急流レースに参加する人もいます。
大都市観光が産業として急成長してはいるものの、スウェーデンはエコツーリズムの最前線にいることに、きっとすでにお気づきでしょう。スウェーデンのすばらしい自然こそ、世界の人口密集地域からこの国を訪れた人々が何より称賛するものなのです。